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芸歴50年で20日間の独演に挑戦 落語家・桂文珍さん |
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「落語は人生経験をたくさん積んだ人ほど楽しみが深いんです」と桂文珍さん。経験が多いと頭の中で描く落語の世界に広がりが出て、奥深くなるという。そんな落語が好きで、仕事にしてしまった文珍さんの趣味は飛行機の操縦。延べ飛行距離は地球何周分にも。「関東エリアだと伊豆大島や新島によく飛んで行きます」 |
各日、豪華ゲストと「真剣勝負」
「珍しいというより、いまだかつてなかったんですよ。これほどの規模の落語会というのは…」と話すのは、上方落語の大看板、落語家の桂文珍さん(71)だ。自身の芸歴50周年を記念して、国立劇場大劇場で「20日間独演会」が2月28日から始まっている。文珍さんが1日2演目、20日間で計40演目披露するほか、“チケットが取りにくい”と評判の落語家、講談師の豪華ゲスト計20人が1日1演目ずつを演じる。文珍さんとゲストとの芸と芸のぶつかり合いが楽しめる同独演会は、「シニアの皆さんに来ていただきやすい、昼間の時間帯でやっています」。
文珍さんが今回の「20日間独演会」を思い立ったのは、10年前に同じ国立劇場大劇場で行った「10日間独演会」が終わって2、3年がたったころ。10日間の独演会が終了した直後は「もう2度とこんなしんどいことはやめておこう」と思っていた。でもしばらくすると「また、やってみたいな」という気持ちになり、「倍の20日間の独演会をやっておけば(後に続く)若い人の励みにもなるのではないか」と考えるようになったという。今回は、「帯久」や「胴乱の幸助」「星野屋」「船弁慶」などの古典落語から「ヘイ・マスター」「スマホでイタコ」といった新作落語まで40席を務める。(2020年の)オリンピックイヤーにちなんで、「20プラス20=40演目やろう」とのしゃれも込めた。
「いつの間にか落語家になって50年もたってしまいましてね。自分でも驚いています」と“人ごと”のように話す文珍さん。桂小文枝(後の五代目桂文枝)に入門、落語家としてのスタートを切ったのは21歳になる直前で、まだ大学生だった。
「師匠の弟子になったのはついこの間のことのように思うんですけど、鏡を見るとやっぱり…(年月が)たっているなと思いますね」と振り返る。師匠の舞台を見て“ひとめぼれ”した文珍さん。「師匠が落語で描いている世界が僕の頭の中でピシャリと描けた。あっ、僕たちは“赤い糸で結ばれている”と思いました」と、このときの衝撃は今も忘れない。それから、まもなく桂三枝(六代目桂文枝)の紹介で師匠に弟子入りを願い出る。しかし、大学を卒業して公務員になることを望んでいた親は猛反対。師匠の勧めもあって大学卒業を約束し、入門が許されることに—。
レギュラー17本
文珍さんの実家は兵庫・篠山(現・丹波篠山市)の農家。「農作業中に頭上を飛ぶ旅客機が時計代わりになるような一家だった」と言う。文珍さんが小学3年生か4年生のころ、落語との運命の出合いが突然、訪れる。ある夜、晩ご飯が終わってNHKラジオの寄席番組を家族みんなで聞いていた。「三遊亭金馬師匠がやっていた『孝行糖(こうこうとう)』を聞いてみんなが笑うんですよ。『あれっ、お父ちゃんもおばあちゃんも今まであんなに難しい顔をしていたのに、ラジオのはなしで笑っている』とびっくり。『落語ってすごいな』と思いました」。これには後日談が…。そのはなしを覚えていた文珍さんが五右衛門風呂に漬かりながら「こうこうとう、こうこうとう」と話し始め、父親が「何でお前、その落語を知っているのか」と驚いたという。
入門後、桂文珍という芸名を師匠から付けてもらい、デビュー。5、6年たってテレビで月亭八方、桂きん枝(現・四代目桂小文枝)らと4人組ユニット「ザ・パンダ」の一人として出演して以降、テレビやラジオで活躍する。一時期、情報番組の司会やクイズ番組なども含めレギュラー番組を17本も抱えていた時期があった。
被災体験が転機に
しかし、あることを契機にレギュラー番組を順次降り、落語に専念するようになる。そのきっかけは、1995年1月17日に起きた阪神・淡路大震災。神戸にあった文珍さんの自宅が半壊して住めなくなり、改装したコンテナに住まざるを得えなくなった。「コンテナの中にいても何もすることがないので、自然とそのときの自分を見つめ直しました。落語が好きでこの世界に入ったのに、何かの拍子に売れてしまった。もっと落語という伝統芸を大切にしないといけないな、と」。文珍さんは震度6の福井地震が起こった1948(昭和23)年に生まれている。その後、戦後の復興や高度成長の中で育ち、前回の東京オリンピックやバブル経済も経験。「こんなラッキーなことはないと思っていたら神戸で被災した。これは考えをしっかりしないといけない」と思ったという。その後、文珍さんは活動の場をテレビからライブでの落語会に移していく—。
中でも力を入れたのが独演会だ。82年から始めて現在も毎年8月8日に開いているほか、2007年から08年までは全国47都道府県独演会ツアー。さらに、10年は国立劇場大劇場での10日間連続「桂文珍大東京独演会」を開催するなど、活動を重ねながら次第に古典落語の持ちネタを増やし、話芸の奥行きも深まった。「地震がなかったらこんなまじめに落語をやっていなかった」と笑う。そんな文珍さんが古典落語を演じるのに度々行っているのが「時代に合わせた工夫」。「ちょっと工夫をすれば昔のはなしが現代に生き返るんです」。女性の視点を加えて時代に合うように演出(「不思議の五圓」)したほか、自らが改作した「星野屋」は歌舞伎座で歌舞伎の演目として上演された。
「今の人に自分の考える楽しい世界を届けたい」と話す文珍さんが〝真剣勝負〟の意気込みで高座に上がると言う「20日間独演会」。“勝負”する相手は、自らが人選した20人のゲスト。上方落語と江戸落語、または講談の世界から実力のある人気者がそろった。「皆さん個性的で表現力があり、尊敬している人たちばかりです」。劇場の総席数が延べ3万席を超えるという規模で行われる今回の独演会では、落語の世界がたっぷり楽しめる。 |
「桂文珍 国立劇場20日間独演会」
24日(火)まで、各日午後2時、国立劇場(地下鉄半蔵門駅徒歩5分)大劇場で。9日(月)〜14日(土)は休演。
出演:桂文珍、ゲスト:桂文枝、林家正蔵、柳家花緑、立川志の輔、春風亭小朝、三遊亭小遊三、柳亭市馬、立川談春、林家たい平、桃月庵白酒、柳家権太楼、春風亭一之輔、三遊亭円楽、神田伯山(神田松之丞)ほか。全席指定。前売り5500円、当日6000円。各ゲストの出演日など詳細は問い合わせを。サンライズプロモーション東京 Tel.0570・00・3337(平日正午〜午後6時) |
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