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  千葉版 平成30年6月号  
ものまね封印! 映画初主演  タレント・コロッケさん

映画「ゆずりは」の題名は、常緑高木のユズリハから採られた。ユズリハは春、枝先に若葉が出た後、前年の葉がそれに譲るように落ちることから、その名で呼ばれる。コロッケさんは「僕もそういうことを考える年になったのかな」とほほ笑むが、以前から若手芸人育成に力を入れている。「ものまねを誰もが認めるエンターテインメントに…、その道筋を付けたいと考えています」
本名の「滝川広志」として出演
 ものまねタレントのコロッケさん(58)が、本名の「滝川広志(ひろし)」として映画初主演—。16日公開の「ゆずりは」は葬送の場を舞台に、命の貴さと人の情愛を描いた物語だ。コロッケさんが演じた主人公は、葬儀社のベテラン幹部社員。心に傷を負い感情の起伏を失った役柄ということもあり、「ものまね、おふざけを封印した」と話す。「いわば“裏コロッケ”のお披露目です(笑)」。葬儀の場面で「本当に泣いてしまった」と明かし、言葉を継ぐ。「役に深く入り込めた。“役者・滝川広志”は最上の一歩を踏み出しました」

 美川憲一、ちあきなおみ、岩崎宏美、武田鉄矢…。コロッケさんのものまねレパートリーは300を超す。鼻の穴をほじる野口五郎、牛のような鳴き声を上げる瀬川瑛子…。大胆な誇張と脚色が持ち味だが、自身を「小心で臆病」と言い表す。「正直、失礼なことをしていると恐縮しています」。とはいえ、「その思いが表に出たら、お客さまは笑えなくなる」と歯切れ良い。生き方の指針とする言葉は「相手が1番、自分は2番(もしくはそれ以下)」だ。「喜んでいただけるよう、とことん工夫する。『分かる人だけに笑ってもらえればいい』という発想は“雑”。僕はそう考えています」

 熊本市に生まれたコロッケさんは、もともと無口でおとなしい性格。しかし、ものまねが上手な姉に影響され、中学3年生のとき、初めて人前でものまねを見せた。高校在学中は、スナックなどで桜田淳子らをまね、一躍人気者に。

 卒業後、赤塚不二夫、タモリ、所ジョージの前で芸を披露するチャンスを得たが、「似ているけれど面白くない」と評された。「どうすれば面白くなるか、なかなか答えは出なかった」。試行錯誤を重ねる中、たまたま再生速度を間違えたレコードに合わせて歌ったところ大受けし、「意外性と違和感の効果に気付いた」と笑みを見せる。

“ぬるま湯を出る
 1980年、「お笑いスター誕生!!」(日本テレビ)で芸能界デビュー。85年から「ものまね王座決定戦」(フジテレビ)に出演し、グッチ裕三、モト冬樹らのビジー・フォーなどと共に「ものまね四天王」に挙げられた。

 しかし92年、高視聴率だった同番組を降板。「現状という“ぬるま湯”から飛び出し、芸を進化させたかった」と、当時の思いを明かす。ロボットの動きをする五木ひろし、北島三郎のダンスバージョンなどは、その後の創作だ。ネタ作りや練習は一人で行う。「人の居ない所では真面目に…、それが“裏コロッケ”の正体です(笑)」。まねる対象への好意と敬意を、一番の基本に位置付ける。「まねさせていただく人の本質を僕なりに理解してからでないと、大胆なアレンジはできません」。殺陣の稽古を積んだ上で北島をまねるなど、まねられた“本人”も、その探究心に舌を巻く。2010年の芸能生活30周年記念感謝の会には、北島や五木といった“本人”らがサプライズ出演。コロッケさんは「皆さまの懐の深さに感激しました」とかみ締める。

 舞台での座長公演など、芝居の実績も重ねているが、「映像作品とは縁が薄いと、半ばあきらめていた」と苦笑する。「複数の人(芸能関係者)から『コロッケはコロッケだよね』と…。ものまねのイメージが強過ぎて(役者としては)使いにくいという意味でしょう」。それだけに、「生と死」を見つめるドラマ「ゆずりは」への出演依頼には「本当に驚いた。『俺でいいの?』と…」。

八千代市に滞在
 「ゆずりは」の主人公・水島正二は妻の自殺後、淡々と葬儀社の職務に当たっていた—。“役者・滝川広志”は、微細な感情の変化を、かすかな目の動きなどで表現する。「架空の人物を演じる芝居は、ものまねとは別物。ものまねのノウハウはあえて排除した」

 撮影地の八千代市に3週間ほど滞在し、「スーパーや居酒屋に通った」と話す。「住む人の日常に接し、役のイメージを膨らませた」。普段から冗談を好むコロッケさんと「逆」の役柄だが、「共通項はある」と笑みを見せる。母子家庭に育ったコロッケさんは長くつましい生活を送り、中学2年生のときには、病気で右耳の聴覚を失った。それでも「明るい母のおかげで、家にはいつも笑いがあった。水島も『人の心』に恵まれ、前に進む力を得る人間です」。作中、自殺した女子中学生の葬儀で水島は声を震わせる。「自分のせりふで感極まってしまって…、忘れられないシーンになりました」

 撮影を終えた今、「僕自身、どう生きていくか、これまで以上に強く意識するようになった」と言う。「演技も奥が深い。表現者としての幅を広げてくれる」と意欲を見せる一方、「(ものまねで)人を喜ばせる本業は、絶対おろそかにしない」。ものまねで文化庁長官表彰に輝いているコロッケさんは、芸の高みを追究する。「まねられる“本人”を知らないお客さまも思わず笑ってしまう—。世代や国境を超えるエンターテインメントが生涯の目標です」


©「ゆずりは」製作委員会
「ゆずりは」
 葬儀社の営業部長の水島正二は他の社員の反対を押し切り、茶髪でピアスの若者・高梨歩を採用する。妻の自殺後、水島は自責の念にかられ心を押し殺してきたが、繊細な感受性を持つ高梨と接し、心の揺れを感じ始めていた。ところがある日、高梨はいじめを苦に自殺した女子中学生を悼むあまり、参列者を罵倒する騒ぎを起こしてしまう—。
 原作:新谷亜貴子、監督:加門幾生、出演:滝川広志(コロッケ)、柾木玲弥、勝部演之ほか。111分。日本映画。
 16日(土)から、千葉劇場(Tel.043・227・4591)ほかで全国順次公開。

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