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古希を記念した現在のツアーは、当初「自分の集大成にしよう」と企画したというが、「いざステージに立ってみたら、生来の『少しでも前へ前へ!』の気持ちが募り、これからのアーティスト活動を探るようなステージになっていました」と布施さん。歌やトークのほか、人生初挑戦となるタップダンスも披露しているという |
3月10日、古希記念コンサート
伸びやかな歌声で、数多くのヒット曲を歌い上げてきた布施明さん(70)。芸能人生53年目を迎えた今も、歌手としてだけでなく作詞・作曲家、小説家、俳優として活動を続けるマルチなアーティストだ。現在、昨秋から続く、自らの古希を前後にまたいだ全国ツアー「布施 明 AKIRA FUSE LIVE 2017—2018ROUTE70—来し方行く末—」を敢行中であり、3月10日には都内のステージに立つ。「僕の歌を聞きながら皆さん個々の人生の“今”を感じてもらい、『自分の人生、捨てたもんじゃなかったな』と思っていただければ、それが演者に対する最高のご褒美ですね(笑)」
コンサートでは往年のヒット曲も歌うが、それはステージ全体の3〜4割。メインは布施さんが「洋楽ポップス」と呼ぶ、外国の楽曲に日本語でオリジナルの詞を付け、一つの違う物語として聴いてもらう歌の数々だ。昔の曲、今の曲関係なく、世界中で流れている曲から、布施さんが気に入ったメロディーに自ら詞を紡いでいるという。「今は廃れましたが、洋楽に新たな息吹を吹き込むのは越路吹雪さんやザ・ピーナッツさん以来の伝統。自分はずっとこのジャンルを歌ってきましたし、最後の一人になっても歌い継いでいくつもりです」
勘違いから芸能界へ
布施さんは幼少時、親に買ってもらった顕微鏡でミクロの世界をのぞいて以降、野口英世のような病理学者に憧れる、理系志向の少年だったという。だが、高校受験直前、小児白血病一歩手前の小児貧血で入院。希望の進路に進めず大きな挫折を味わった。この病はその後の人生を左右することになる。
高校時代、歌声オーディション番組の予選に出る友達にくっついて2〜3人で連れだってスタジオに遊びに行ったら、なぜか布施さんが本戦に出ることに。当時、病気の影響で肌や毛髪の色素が薄くなっており、“ハーフの美少年”と勘違いした番組ディレクターの目に留まったのだ。それからは本戦に向け友達の応援を背に歌の練習に励み、オーディションに見事合格、芸能事務所にスカウトされた。「本格的に歌ったのはこのときが初めてでした」
意図せず芸能界に足を踏み入れた布施さんだが、アルバイト感覚で楽しみ、ジャズ喫茶などで歌声を磨いていた。そして16歳のとき、事務所の先輩が体調を崩したことから代役で歌った「君に涙とほほえみを」(1965年)でレコードデビューするとその翌年、「霧の摩周湖」(66年)で大ヒットを飛ばす。以降、NHK紅白の常連となるなど若くしてスター街道をひた走るが、当時はまだ高校生。“歌手”として本腰が定まってなかった当人は、大いに戸惑っていた。「『えらいことになった。どうやってこの世界から抜け出そうか』ということばかり考えていました(笑)」
同年輩が大学を出て社会に出るころには自分も芸能界を卒業しようと思ったが、芸能界は“売れっ子”をなかなか手放してくれない。それから約10年、あるレコードを収録しそれがヒットしなかったら長い休暇をもらえることになったのだが、その歌が「シクラメンのかほり」(75年)だった。同歌はレコード大賞を獲得する大ヒットとなり、当然休暇の話はうやむやに。いよいよ芸能界から抜けられなくなり、布施さんは複雑な気持ちを味わった。
歌は「財産」
その後、ハリウッド女優オリビア・ハッセーとの結婚を機に渡米。同地で一から音楽を勉強し直したりしたが、「いい加減に過ごしていた」という布施さん。約10年の結婚生活が破局し日本に戻って来たとき、手元には何も残っていなかった。生活のために歌うしかないが、あんなに抜けたいと思っていた芸能界に既に自分の居場所などなかった。だがそんなとき、布施さんを救ったのが「シクラメンのかほり」だった。「それまでの経緯もあって決して好きではなかった歌ですが、この歌を歌うときだけは、少しだけ居場所を空けてもらえました」
その後は求められれば昔の曲を歌い続け、少しずつ居場所を広げて今に至ると苦笑する。「昔、芸能界の先輩に『歌は財産だぞ!』と忠告してもらっても全く気にも留めませんでしたが、そのありがたみにやっと気付きました。まさしく歌は私の財産となりました」
布施さんは今年を新たなチャレンジの年にするという。現在制作中のアルバムでは、往年のヒット曲を提供してくれた作詞・作曲家らを訪ね、「今に通ずる楽曲を一緒につくり上げよう」と持ち掛けたと話す。「皆、目を輝かして話に乗ってくれました。同時代を生きた同志だからでしょう」
そして、前を向いて布施さんは語る。「ずっと追いかけてくれるファンの思いにも応えつつ、ノスタルジックではなく、“今”を感じる楽曲を歌っていきたいですね」 |
♪布施 明 AKIRA FUSE LIVE 2017─2018 ROUTE70─来し方行く末─♪
3月10日(土)午後4時半、Bunkamura(JR渋谷駅徒歩7分)オーチャードホールで。
予定曲:「君は薔薇より美しい」「霧の摩周湖」「シクラメンのかほり」「My Way」ほか。
全席指定。S席6800円、A席5400円。東京音協 Tel.03・5774・3030 |
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