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  千葉版 平成29年7月号  
演技を通し 生きざま示す  俳優・酒井敏也さん

独特のヘアスタイルは、僧侶役がきっかけだったという。「役作りで頭をそるはずが、そのときの監督にワンポイントだけ髪の毛を残したら面白そうだから、と言われこのヘアスタイルに。それからずっとそのままです。実は中学のころから薄毛で、30歳を過ぎたころは真剣に悩んでいましたので、ちょうどよかったんですよね(笑)」
「音楽詩」の創作続け40年
 頭頂部に一房だけ残った髪の毛がチャーミングな、演技派俳優・酒井敏也さん(58)。現在はバラエティー番組などでの露出が多いが、若いころは「つかこうへいの秘蔵っ子」として、アングラ劇を含めた舞台やテレビドラマ、映画にたびたび出演、今も独特の存在感を放つ。また、一度聞けば忘れられないような特徴のある声を生かし、ナレーションなどでも活躍している。8月には、舞台「向日葵(ひまわり)のかっちゃん」に出演する酒井さん。「演ずるというのは、観客に役者自身の人生哲学(生きざま)を見せるということだと思っています。一生懸命やらせてもらって、お客さんに楽しんでもらいたいですね」

 酒井さんの出身地は岐阜県土岐市。美濃焼で有名な同市で窯業を営む一家の長男として1959年に誕生した。実家では主に“どんぶり”を生産しており、酒井さんも跡を継ぐべく同県立の工業高校窯業科に進学。

 だが、高校2年生のとき、実家が廃業。人生の目標を見失ったころ酒井さんが出合ったのが演劇部だった。ただし、純粋に演劇に引かれたわけではない。「当時所属していた卓球部の部室はぼろぼろで、壁の隙間から隣の演劇部の様子をのぞき見することができました。工業高には数少ない女の子たちがいつもトランプをしており、あの楽しそうな空間に加わりたいといつも思っていました(笑)」

 演劇部の知人から声を掛けられすぐに入部。演劇などやることもなく毎日トランプに興じていたという。ところが酒井さんが3年のとき、学校創立80周年ということで、演劇部は文化祭で劇を披露することに。そのときは演劇のイロハも知らない部員らを卒業生が指導してくれ、何とか演じきることができたという。「厳しい指導でしたが、終わった後は、これまで感じたことのない充実感がありました。これが自分の演劇人生の原点だったのでしょうね」

つかの舞台に魅了
 高校卒業後、酒井さんは地元のディーラー(自動車販売会社)に整備士として就職。高校生のときにテレビで見た、劇団「つかこうへい事務所」の舞台に魅了され、同劇団の観劇を楽しみに仕事に励んでいた。「つかさんの劇団の舞台からは、一人一人の役者の人生が感じとれました」

 20歳の冬のある日、思い切って同劇団の事務所に入団したい旨を電話。すると、翌春に入団オーディションをするかもしれないのでそのときに応募してほしいと聞かされ、「働いている場合じゃない!」と、職を辞しアルバイト生活に移行。いつでも自由に動けるように環境を整えた。

 オーディションでは書類審査と、募集している配役のセリフを吹き込んだデモテープを提出。その特徴ある声がつかの関心を引き、「すぐに電話が欲しい」との手紙が自宅に来たという。「電話を掛けると、直接つかさんから『あしたから来れるか?』と聞かれました。この日のために覚悟を決めてましたので、すぐに上京しました」

 21歳で劇団「つかこうへい事務所」に入団。早いうちから役をもらえ舞台に出るようになった。「とても注目されていた劇団なので、多くのメディア関係者も見に来ており、僕にもそこから、『セーラー服と機関銃』(81年)などの映画やさまざまなドラマに出演のオファーが来ました」

 また、酒井さんは、舞台に励みながら、つかの付き人兼運転手となっており、つかのすすめで演技の練習になるからと、さまざまなアルバイトを紹介された。「発声の練習になるだろうと、築地市場や新幹線の車内販売の仕事をしましたが、正直練習にはなりませんでした(笑)。さらにはマグロ漁船に乗れと言われましたが、さすがにそれは断りました」

 そのころ酒井さんは、稽古や舞台にアルバイト、それに付き人兼運転手をこなし、眠れないほど多忙な日々を過ごしたが、つかと過ごした二人きりの時間は幸せでたまらなかったという。既につかは鬼籍に入ったが、「芝居はするな」「(芝居では)自身の生きてきた哲学を見せろ」という教えを今も大事にしていると語る。

焼き物で故郷PRを
 今後の演劇人生について、「昔は悪役など、とがった役をやりたいと思っていましたが、このごろはありませんね。なにごとも自然体でやっていきたいです」とニコリ。また酒井さんはボクシング観戦やUFOキャッチャーなど多くの趣味を持つ。昔、人生の目標だった焼き物にも造詣が深い。現在、若手の陶芸家や彫金家、粘土作家の追っかけをしていると言い、「いつか僕が彼らをプロデュースして、土岐市で焼き物を作ってもらいたいと思っています。畑の違う芸術家がどんな作品を作るか、僕自身が興味がありますが、これを通じて多くの人に、土岐市に足を運んでもらえればいいですね」とほほ笑む。

「向日葵のかっちゃん」
 8月23日(水)〜27日(日)、銀座博品館劇場(JR新橋駅徒歩3分)で。全7公演。
 時計も漢字も読めず、支援学級に通う小学生の“かっちゃん”が、転校した学校で出会った熱血漢の教師から、勉強の楽しさを教えられて成長する奇跡の物語。
 NHK「おかあさんといっしょ」内で放送された人形劇「ぐ〜チョコランタン」などの脚本家として知られる作家・西川司の自伝的小説を初舞台化。

 原作:西川司「向日葵のかっちゃん(講談社刊)」、脚本・演出:わかぎゑふ、出演:三上真史、星野真里、酒井敏也ほか。
 全席指定6800円。問い合わせは、る・ひまわり Tel.03・6277・6622

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