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認知症の夫を介護して15年 「認知症の人と家族の会」千葉県支部・阿部洋子さん |
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「認知症の人と家族の会」千葉県支部でボランティアとして精力的に活動する阿部さん |
17日に市原市で講演
全国で認知症を患う人は2025年には700万人を超えると厚生労働省は推計しており、65歳以上の5人に1人が発症するとしている。17日に「認知症の人の心に寄り添う」をテーマに一般公開講座が市原市で開催される。このなかで一般講演として、公益社団法人「認知症の人と家族の会」千葉県支部(広岡成子代表)の世話人・阿部洋子さん(67)が「私の介護体験〜高次脳機能障害から認知症となった夫〜」を講演する。
猛烈な会社員
阿部さんの夫は1999年、57歳の時転落事故を起こした。「そこから私の人生が狂い始めました」と当時を振り返る。救急車で運ばれた病院で検査の結果、外傷性くも膜下出血と診断された。「意識がないまま点滴は外す、尿管は引き抜くなどしたため手足、肩など体をがっちり拘束されてしまいました」
倒れる以前の夫はいわゆる“猛烈サラリーマン”で日付が変わるまで働いていた。夫が倒れた後、九州、神戸、名古屋など全国から友人が訪ねてくれ、今後のことを考えてくれたという。
「こんなに友人がいたのかと驚き、私の知らない夫の一面を見た気がしました。会社も60歳までの残り3年を休職扱いにしてくれて健康保険を使い、給料、退職金をもらうなど友人たちが尽力してくれました。金銭面での指針が示され私の不安の一つが解消されました」
夫は赤ちゃんに
その後、脳外傷専門リハビリ病院で検診を受け、リハビリも始めた。「いくら訓練しても3歳以上の脳にはなりません。夫が赤ちゃんになってしまいました」。そして事故から100日を超えたある日、2泊3日の予定で自宅に戻る。初めて来たように全部の部屋を見て歩き、トイレと風呂を何度も間違えたという。歯磨きをさせようとしたら石鹸を口にくわえ、食事が終わってもすぐ食べたがり、夜中にバナナを食べ、さらに引き出しを開けて菓子を探したりした。「退院したら毎日この生活と思うとぞっとしました」
1日7回も散歩
事故から3年経つと行動心理症状が増えてきた。突然怒り出す、暴れ出す、玄関のドアをたたくなどの行動。「まだ若かったため力も強く足も速いのです。私はたまらなくなり、散歩に連れ出すのです。午前2回、午後3回、車で2回、朝8時から毎日7回付き合いました」
暑くても寒くても1日の大半を徘徊に費やす日々。異食も始まった。「夫の目に触れる場所には食べ物を置かないようにしましたが、ある日生肉、冷凍食品をテーブルに出し、満足そうににんまりしているのを見て危なくて、ゆっくりお風呂にも入れないと思いました」
認知症の名札を
「少し前までは認知症を受けいれることができませんでしたが、だんだん気持ちが変わってきて、受け入れることができました」。毎朝、胸に表には「認知症です。ご理解を」、裏には住所、氏名を書いた名札を付けた。読字不能の夫には分からなかった。
「このころスーパーで買い物中、自分の前に人が立つのが気に入らなくて相手にばか、あほと叫び言い合いになることも。『認知症です、すみません』と謝るとこんな人を外に連れ出すあんたが悪いと怒鳴られる始末です。周りの視線に耐えられなく、涙をこぼしたこともたびたびです」
こんな日常生活の中にも、夫の誕生日に初めてファミリー海外旅行に行った。「プールで泳いだり、6キロに及ぶ海岸を夕暮れ時に散歩したりと穏やかな時間が流れました。バースデーケーキを消す夫の笑顔は忘れられません」
72歳で夫が亡くなるまでの15年間、この間には父も認知症を患い、遠距離介護を余儀なくされる。「でも穏やかに過ごした日もありました」。このような介護の経験を話すことで少しでも認知症の家族の参考になってくれればと阿部さんは締めくくる。 |
◆一般公開講座 〜認知症の人の心に寄り添う〜
17日(日)午後2時〜4時半、市原市勤労会館「YOUホール」(JR五井駅徒歩15分)で。
【特別講演】
「認知症と生きるということ」東京女子医科大学名誉教授・メディカルクリニック柿の木坂院長・岩田誠氏。
【一般講演】
「私の介護体験〜高次脳機能障害から認知症となった夫〜」公益社団法人「認知症の人と家族の会」千葉県支部・阿部洋子氏。無料。定員300人。申し込み不要。問い合わせは Tel.0436・74・1111 |
ちば認知症相談コールセンター
千葉県と千葉市の委託事業として「認知症の人と家族の会」千葉県史部が受託している。
Tel.043・238・7731(月・火・木・土午前10時〜午後4時) |
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