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日暮里の富士見坂。富士見坂の坂名は「都区部に30近くある」(坂学会事務局)ともいわれる |
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景観保全へ住民ら活動
日暮里の富士見坂(荒川区)は、富士山を望む“唯一の富士見坂”といわれる。よく晴れた日に見える山頂と稜線(りょうせん)。ただ左側の稜線は2000年、ビル建設によって遮られた。「富士山の見えない富士見坂ばかり」になった現在の東京─。住民主体の「日暮里富士見坂を守る会」の活動は続く。しかし坂の眺望を守る制度はない。“最後の富士見坂”の将来は、まだ見えない。
江戸・東京の原風景を伝える富士見坂の名。近年名付けられた坂を除いても「都心部(JR山手線内と沿線地域)に16以上の富士見坂がある」(富士見坂眺望研究会)。しかし高層建設が増えた今、山容がはっきり見える坂は、日暮里の富士見坂だけという。
日暮里富士見坂を守る会会長の金子誠さん(82)は、下町情緒を残す“谷根千”で、佃煮の老舗「中野屋」を営む。「騒ぎになり初めて“唯一”と知った」と穏やかな笑顔。「騒ぎ」というのは99年11月からほぼ1年間に及んだ文京区内のビル建設反対運動だ。
坂の眺望ラインにかかる13階建てビルの着工を受け、住民や有志が急きょ、建設業者や都、文京区などに階数変更を働き掛けた。新聞やテレビも取り上げた「富士見坂問題」。しかし変更は業者にとって4億円を超す損失とあって00年春、左側稜線はビルの鉄骨の陰に隠れた。
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金子誠さん |
97年、都市景観の研究家らでつくった富士見坂眺望研究会代表の千葉一輝さん(58)=早稲田大講師=は、その景観を“片翼の富士”と表現する。
反対運動をきっかけにできた守る会の現会員は約20人。発足時より少ないが、金子さんは「地に足が着いた“残党”ばかり」と笑う。
荒川区の南西端にある富士見坂から富士山までは約100キロ。眺望は主として、西南西にある文京区内の建物に左右される。幹線道路沿いは“一等地”とあって「高さ制限は無理」と言う人も多いが、守る会会員で文京区に住む山崎範子さん(51)は「高さを抑えてほしい場所は意外に多くない」と保護の実現性を強調する。
日暮里の富士見坂・坂上からの富士山の眺望。2008年11月19日 撮影=石川正さん |
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1990年1月1日 撮影=石川正さん |
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行政と“温度差”
「難しい問題です」。荒川、文京両区と都の担当職員は、慎重に言葉を選ぶ。荒川区都市計画課の山本和夫課長(60)は「何とか景観を守りたい」としながらも「(文京区と)立場が逆だったらと思うと…、無理は言えない」と行政区を越えた問題に対する複雑な胸中を明かす。文京区には景観事前協議制度があるが「区外からの眺望を想定したものではない」(計画調整課)。
日暮里の富士見坂は96年度、都の都市景観コンテストで「この景観を『いつまでも』賞の特別賞」に選ばれたが「都の景観計画では、具体的な保全対策の対象に入っていない」(都市整備局市街地企画課)という。
「富士見坂の眺望は、市民共有の風景遺産」と指摘する千葉さんは、「(眺望ラインの)建物の高さを規制・誘導できる制度が必要」と説く。眺望研究会と守る会は、地権者や開発業者にも活動の趣旨を伝えるよう努めているが、開発抑制に対する経済的な補償制度はなく、守る会会員で坂上近くに住む江黒ミヨ子さん(76)は「(地権者などに)申し訳ない気もします」と話す。
現時点で眺望を脅かす開発計画はないというが、千葉さんや山崎さんは「富士見坂の眺望保全を都の景観計画などに早く盛り込んでほしい」と行政への働き掛けを続ける考えだ。
ダイヤモンド富士
08年11月、記者は太陽が山頂部に沈む「ダイヤモンド富士」を坂上で見た。薄曇りの中、落日に照らされ、ほのかに浮かんだ富士山のシルエット…。ダイヤモンド富士は1月下旬にもある。「雲が隠すのは仕方ない。でも、ビルが隠す風景は見たくない」。立場や世代、住む地域を超え、思いを共有する人が坂に集う。
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