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白山上から見た薬師坂。
「B−ぐる」が走る薬師坂の道路の下には都電の線路が埋められている |
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「三四郎」の舞台
都営地下鉄三田線白山駅の真上にある薬師坂は、古くから往来の続く交通の要衝だ。“学生のまち”白山にあって、かつては荷馬車や都電が走り、学生運動のデモも連なった薬師坂。マンション建設などが進み「住民が世代交代した」というが、最近では「文京区コミュニティバスBーぐる」が周遊する“白山の坂” に、街歩きを楽しむシニアの姿が増えている。
白山駅周辺をほぼ南北に貫く約300メートルの薬師坂。坂を上った辺りを白山上、坂下を白山下と呼び、それぞれ複数の道路が集まる。
薬師坂は夏目漱石の青春小説「三四郎」(1908年、朝日新聞に連載)の中で、主人公の三四郎が意中の女性、美禰子と上った坂としても知られるが、作品中では《白山の坂》としか記されていない。江戸時代の地誌書「御府内備考」によると、薬師坂の名称は坂の上部にある妙清寺に薬師堂があったことに由来する。しかし地元では「白山の坂」「八百屋お七の墓が近くにある道路」などの呼び名が一般的なようだ。
また薬師坂は坂下に浄雲寺(現・浄雲院心光寺)、西側丘陵にあじさい祭りで有名な白山神社があることからそれぞれ浄雲寺坂、白山坂と呼ばれることも。
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6月には約3000株のアジサイが見ごろを迎える白山神社 |
かつては都電の道
この季節、薬師坂には街路樹のユリノキが半纏(はんてん)形の葉を広げる。白山下から一見すると緩やかな上り坂だが、実際に歩くとこう配があり息が切れる。100年ほど前から3系統の都電がこの地を走り、上り坂の途中で“立ち往生”する姿も見かけられたという。「当時、坂沿いには呉服や足袋、道具などの店があり、白山上にはビリヤード場や芝居小屋、白山下には花街の雰囲気が残っていました」と坂の中腹で育った高岡治美さん(58)。往来の絶えない薬師坂では「野菜を運ぶ荷馬車や学生運動の列、真っ白なオープンカーに乗った力道山を見たこともあります」と振り返る。
昭和40年代、春日通りを行く都電。
都営地下鉄三田線の工事が進む白山通り(写真中央)を約1.3キロ行くと白山坂下に
(写真提供:文京ふるさと歴史観) |
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シニアが歩く坂に
68(昭和43)年に都電が撤廃され、三田線が運行するようになると道路の整備やビル化、マンション建設の動きが進む。坂沿いの店舗も入れ替わる中、高岡さんの夫で、薬師坂で「薬膳(やくぜん)カレーじねんじょ」(TEL03・3818・5689)を経営する生井隆明さん(63)は「20年前から景観はほとんど同じ」と話す。
また、創始者同士が兄弟でキーコーヒーと“親戚(せき)”になる「木村コーヒー店」は56(昭和31)年の創業。父親の代から自家焙煎(ばいせん)のコーヒーを提供する五木田(旧姓木村)好恵さん(66)は「(木造3階建てだった店内に)東洋大の学生がワッフルを食べに行列を作ったこともある」と懐かしむが、「最近ではむしろ中高年がよく歩いている。散策の途中でよく立ち寄ってくれますよ」と笑顔を見せた。
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「薬膳カレーじねんじょ」を経営する生井さん(右)、高岡さん夫妻。
免疫効果のある野菜や薬草を使ったカレーが味わえる |
◎薬膳(やくぜん)カレーじねんじょ
TEL:03-3818-5689 |
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