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青木坂の坂上からは、かつて富士山が見えた。左側はフランス大使館。 |
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フランス大使館に沿って急な傾斜を描く青木坂。坂上は南麻布の“超”高級住宅地。大使館側の石垣と木々が江戸の風情を醸し、静けさの中、落ち葉が舞う。一方、坂下の住民は笑顔で「こっちは庶民の街」。近年は大使館と地元町会の交流が芽生え「フランスが少し身近になった」と語る人も。“大使館のある街”ならではの話題も拾った。
青木坂は急だが、長さは100メートル余り。それでも「坂の半分から上と下では、違う街のよう」と住民の多くが口にする。坂下を見渡すと、大使館の“はす向かい”に数棟の都営住宅。小さな家庭菜園が印象的だ。坂名は江戸時代、旗本の青木氏が屋敷を構えたのに由来するが、昭和の初めまでは富士山がよく見え、「富士見坂」と呼ばれることが多かったという。
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坂下から見上げる。
大使館の向かい側は住宅や新しいマンションが建つ。 |
創業100年近い酒店「兵庫屋」は、坂下の店を一家7人で切り盛りする。商店街がすぐ近くにないとあって、コンビニエンスストア以上の品ぞろえ。店頭には英字新聞が置かれ、外国人が多く住む土地柄をうかがわせる。フランス大使館に酒類などを納品しているが、「警備は厳重。話す機会はあまりないですね」と店主の橋本芳治さん (70) 。
近くを配達で回る二男の幸一さん (38) は「最近のマンション建設で (坂沿いの) 木がだいぶ切られ雰囲気が変わりました。大使館側の木はそのままですが…」と少し複雑な表情を見せる。
橋本芳治さん |
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大使館の敷地に接して建つ町会会館は、坂下の交差点に面する。南麻布富士見町会は600世帯、2000人の「マンモス町会」。2006年まで14年間、会長を務めた西尾慶治さん (82) =同町会相談役= は「昔から住んでいる方が多く、町会活動は活発です」と笑顔を見せる。とはいえ活動の主体はやはり近所付き合いが密な坂下側。坂上付近のマンションなどは警備の関係もあって回覧板を回せず、お知らせの文書をポストに入れるなど「あれこれ苦心しています」とも話す。
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青木坂の坂上に面するフランス大使館官邸門前に立つ西尾慶治さん |
大使館は戦前からこの地にあるが、地元にとっては「“近くて遠い”存在だった」と西尾さん。23年の関東大震災の時、大使館から見舞金があったが「その後の行き来はたぶんなかった」。住民のひとりは「60年代は核実験抗議のデモ隊が押し寄せ“近所迷惑”だった」と明かす。毎年7月の「パリ祭」では大使館に出入りする車で辺りは大渋滞。青木坂を含む道は狭く一方通行が多いことから、町会が交通案内に協力したことが交流のきっかけになった。パリ祭に町会役員が招かれるようになったのは6、7年前。今年9月の地元の祭りでは、みこしが初めて大使館敷地内に入った。
威勢のよい掛け声とともに練り歩く“ナマの日本文化”に接した大使館員らの笑顔。シャンパンやケーキがみこしの担ぎ手に振る舞われ、大使夫妻と町会役員が会話を楽しんだ。「これでぐっと親近感がわいた」と西尾さん。「不審人物が交ざらないよう、みんなで神経を使ったが、その疲れを忘れた」と笑う。
08年は1858年の日仏修好通商条約から数えた「日仏交流150周年」。大使館は「地元との交流事業は、まだ決めていない」とのことだが、ようやく芽生えた“大使館のある街”との縁を地道に保ってほしいと記者は感じた。
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青木坂の坂下の街並み。 |
◆商店街に銭湯も◆
坂下から地下鉄広尾駅に通じる表通りに出ると、クリスマスムードを演出したおしゃれなレストランやカフェが並ぶ。一方、広尾駅近くの商店街「広尾散歩通り」は庶民的な一面も。手ぶらでも入浴できる銭湯「広尾湯」(TEL : 03・3473・0624) は、薪 (まき) で沸かす湯が体を温めてくれると評判だ。冬至の22日 (土) は、ゆず湯が楽しめる。
TEL03-6303-1110 |
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