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江戸時代からの寺など古い建物が多い三崎坂 |
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江戸の情感を残す谷中、根津、千駄木。通称 "谷根千" で毎年8月、落語中興の祖・三遊亭円朝にちなんだ「円朝まつり」が催される。場所は三崎 (さんさき) 坂に面する全生庵。「自分たちが住む谷根千の景観を守る」という熱意が生んだまつりは、今年で23回を数える。今や東京の人気スポットになった谷根千。ゆかしい街並みに、住民の熱い思いが宿る。
台東、文京両区にまたがる谷根千。古い寺や家屋がそこかしこにたたずむ。行政区の枠を超えた街並み保存の実り。地域雑誌「谷中・根津・千駄木」編集人のひとり、仰木ひろみさん (51) は「区が違っても、わたしたち住民にとって、谷根千はひとつの街」と語る。三崎坂の坂下は文京区だが、少し上ると台東区に入る。
穴子ずしの名店「すし乃池」店主の野池幸三さん (80) は、1965(昭和40)年、坂沿いに店を構えた。「わたしはもともと長野の出。 (谷根千は) 落ち着いたいい街と思ったね」と今や威勢の良い江戸っ子言葉。しかし、マンション建設などで変わりゆく東京の景観を見て「谷根千の街並みも、じきに壊れる」と危機感を抱いた。「谷中・根津・千駄木」を84年に創刊した森まゆみさん (52) 、妹の仰木さんらも思いは同じ。全生庵には円朝の墓があり、落語家たちが命日の8月11日に法要を営んでいた。「怪談牡丹灯籠」や「真景累ヶ淵」に代表される怪談噺 (ばなし) を創作した円朝は、円山応挙や川上冬崖らが描いた幽霊画の収集家でもあった。全生庵が保管する幽霊画が法要に合わせて虫干しされることを知った野池さんや森さんたち。全生庵の理解を得て85年8月、幽霊画公開や円朝寄席の第1回円朝まつりを開催した。
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「円朝まつり」(06年用) のポスターを手にする野池さん |
前の年、伝統の「菊まつり」を復活させていたこともあり、「住民みんなに勢いがあったね」と野池さん。近所の田辺武さん (70) は「わたしらは下足番や会場づくり。野池さんのパワーとアイデアはすごい」と、ミステリー愛好家に知られる「コーヒー乱歩゚」で話す。坂沿いにマンションが建つ際、高さや外観に配慮するよう建設業者などに働き掛け、実現させたのも「住民の力」と野池さんたちは振り返る。
23回目となる今年の円朝まつりでも、8月1日 (水) から31日 (金) まで、全生庵資料館で幽霊画約50点を公開する。名物の円朝寄席は18日(土)。三遊亭鳳楽、円橘、好楽の3人は「いつも忙しい時間を割いてくださる」と野池さん。落語愛好家にすっかり定着した寄席の日は、広い境内が人で埋まる。
谷根千の情報を発信する「谷中・根津・千駄木」は09年春、第93号で発行を終える予定だ。仰木さんは「時間や採算…。厳しい中、地域の皆さんのおかげでここまで続けられました」と静かに話す。「やめないで」という声が相次いでいるが、「街への思いは変わりません。わたしたちの活動は続きます」と仰木さん。野池さんは「本当にありがとうという思い。これからも力を合わせたい」
円朝まつりでは、坂沿いの景観に配慮したマンションの住民も裏方役として活躍する。谷根千を守る─。その誓いは確かな広がりを見せている。
幽霊画鑑賞や円朝寄席の入場は有料。問い合わせは実行委員会事務局の「すし乃池」。一方、(社)落語協会は寄席や芸人屋台の「円朝記念 落語協会感謝祭2007」を、8月5日(日)に開催する。
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円朝まつりが催される全生庵 |
『コーヒー乱歩』
TEL : 03-3828-9494
『すし乃池』
TEL : 03-3821-3922
『(社)落語協会』
円朝記念 落語協会感謝祭2007の詳細
問い合わせ : 03-3833-8563 |
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