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チェニジー
(個人蔵) |
今年、生誕100年を迎えた作家・安部公房(1924〜93)。シンセサイザーで作曲を手掛け、日本語ワードプロセッサーが実用化されるといち早く執筆に導入するなど、最先端の道具を使いこなし、その新しい可能性を追究した表現者でした。
小説や戯曲などに奇想天外な発明品を幾つも登場させている公房ですが、公房の考案で実際に商品化されたものがあります。1991年に実用新案登録されたタイヤチェーン装置です。
晩年の公房は、神奈川・箱根の山荘を仕事場としており、雪道を車で走行する機会が多く、滑り止め用のタイヤチェーンとの格闘にうんざりしていたようです。そこで、車を移動したりジャッキを使うことなく、簡単にチェーンを装着する方法としてひらめいたのが、はしご型タイヤチェーンの「両耳の位相をハシゴ一本分ずらす(チェーンの両端の長さを左右互い違いにハシゴ一段分延ばす)」というアイデアでした。
図版はその実物で、「CHAIN(チェーン)」プラス「EASY(イージー)」で、「チェニジー」と名付けられています。公房と親交の深かった堤清二(辻井喬の名で詩人、作家としても知られています)が社長をしていた西武百貨店から、1985年に発売されました。公房によれば、それまでチェーンを掛けるのに20分以上かかっていた人が、4分足らずでタイヤに装着できたそうです。
舞台演出家や写真家としての顔も持ち、ジャンルの枠を越えて活躍した公房。そのマルチな才能を物語るエピソードの一つです。
《神奈川県立神奈川近代文学館 浅野千保》 |
◆ 「安部公房展—21世紀文学の基軸」 ◆
12月8日(日)まで、神奈川県立神奈川近代文学館(みなとみらい線元町・中華街駅徒歩10分)で。
「砂の女」「箱男」などの小説や写真、映画、演劇など多様な表現で時代の先端をとらえ続けた“芸術家”安部公房の全貌を、初公開を含む約500点の資料で紹介している。
観覧料一般800円、65歳以上400円。問い合わせは同館 Tel.045・622・6666 |
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