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根を張って動かない植物ですが、種子や果実は、それ自体を生んだ「親植物」のいる場所から遠く離れるため、「動く工夫」がなされています。ただ、それは動物の動き方とは異なり、風の力や動物の力を借りた動き方になります。
庭などで栽培され、初冬に黄色い花を咲かせるツワブキは、果実の先に「冠毛(かんもう)」という毛状のものが放射状に付いています。冠毛には肉眼では見えないほどの細かな刺(とげ)があり、風が吹くと舞い上がりパラシュートのように風に乗ることができます。細かな刺は風に乗った際に滞空時間を延ばせるという優れものです。
同じように風を利用するものでも、森に生育するウバユリは違った飛び方をします。花茎の先端に付いた果実の中には、みっちりと種子が重なって入っています。種子の周囲には薄い膜があり、果実が開いた後に風を受けると、膜を持った種子はグライダーが滑空するように地面に向かって飛んでいきます。
薄暗く湿った林縁や藪(やぶ)に生育するヤブミョウガは、この時季に藍色の果実を付けています。いかにもおいしそうな色で鳥が見つけて食べて運ばれる仕組みですが、果肉はなく中には多角形の種子がぎっしり詰まっています。食べた鳥はがっかりしてしまうかもしれませんが、果肉部を作るのは植物にとって「コスト」がかかることなので、コストを削減した果実といえるでしょう。さらに、この藍色は色素によるものではなく、光の干渉や反射によって生じる構造色によるもので、果皮表面の微細な構造によって発色しているように見えているのです。
種子や果実の形や色には、遠くへ行くための機能的な工夫が秘められているのです。
《練馬区立牧野記念庭園学芸員・伊藤千恵》 |
◆ 企画展「植物たちの声を聴く—岩谷雪子の世界—」 ◆
1月22日(水)まで、練馬区立牧野記念庭園(西武池袋線大泉学園駅徒歩5分)記念館企画展示室で。
岩谷雪子は植物の細部に造形的な魅力を見いだし、それらを損なわないようにアート作品にする造形作家。同展では、ツワブキやウバユリ、ヤブミョウガの種子や果実を含め、岩谷が制作した作品18点を展示している。
入場無料。問い合わせは同園 Tel.03・6904・6403 |
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