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  ものしりミニ講座 令和6年10月下旬号  
「最後の浮世絵師」の集大成  月岡芳年「月百姿」

月岡芳年「月百姿  石山月」=後期展示
 月岡芳年(1839〜92)は幕末・明治期に活躍した浮世絵師です。1850(嘉永3)年、12歳で当時の人気浮世絵師・歌川国芳に入門し「芳年」の名を与えられ、15歳の若さで画壇にデビューしました。

 師である国芳の自由な発想を継承しつつ伝統的な浮世絵に西洋の写実主義を加味し、幕末から明治へと移り変わる時代の中で鮮烈な作品を次々と生み出し、しばしば「最後の浮世絵師」とも称されました。「月百姿」は、芳年が月をテーマとして描いた100枚の揃物(そろいもの)です。古代から江戸時代までのさまざまな月にまつわる場面が描かれ、「源氏物語」や「竹取物語」などなじみ深いテーマにちなんだものから、妖怪や幽霊が登場するもの、歴史に名を刻んだ武将、絶世の美女など、バラエティーに富んでいます。これらは写実的でありながらも神秘的で幻想的な雰囲気をたたえ、芳年の晩年の集大成とも評価されます。

 月百姿の中の1点「石山月」は、月を眺めながら「源氏物語」の構想を練る紫式部の姿が描かれています。奈良時代に創建された石山寺は琵琶湖の南端近くに位置する寺で東寺真言宗の大本山にあたり、「『源氏物語』はじまりの地」としても有名です。紫式部は時の中宮の要望を受け、新しい物語を作るため石山寺に7日間参籠しました。琵琶湖の湖面に映った十五夜の月を眺めていたときに、都から須磨の地へ流された貴公子が月を見て都を恋しく思う場面を思いつき、「今宵は十五夜なりけり」の一節を書いたことで「源氏物語」の構想がひらめいたという伝承があります。「石山月」の山の間には名月が浮かび、画面上には描かれていませんが、その下には月を映した琵琶湖があるのでしょうか。紫式部の視線の先には、みやびやかな「源氏物語」の世界が広がっていたのかもしれません。

 ホテル雅叙園東京の企画展「月百姿×百段階段」では、「月百姿」より20点を前後期に分けて展示しています。

《ホテル雅叙園東京・学芸員 梶野桜》

◆ 企画展「月百姿×百段階段〜五感で愉しむ月めぐり〜」 ◆
 12月1日(日)まで、ホテル雅叙園東京(JR目黒駅徒歩3分)で。11月5日(火)は展示替えのため休館。
 一般1600円。ホテル雅叙園東京Tel.03・5434・3140

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