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竹久夢二『夢二画集 都会の巻』
1911年 竹久夢二美術館蔵 |
大正ロマンを象徴し、恋多き画家としても知られる竹久夢二(1884〜1934)は、動物をモチーフにした作品も数多く残しています。
夢二が描く動物で真っ先に思い浮かぶのは、クロネコではないでしょうか? 女性がクロネコを抱く姿は、繰り返し描かれました。ネコの持つ繊細さと魔性の雰囲気に加え、黒という毛色によって神秘性が増し、さらにそのクロネコを抱く女性のしぐさも相まって、画面からは退廃的なエロチシズムが伝わってくるようです。
女性とクロネコという組み合わせだけでなく、単独でクロネコを描き表すことも夢二は好みました。「夢二画集 都会の巻」のカバーには、木の上を歩くクロネコが眼光鋭く描かれています。ところで19世紀末のヨーロッパに開花した世紀末芸術においてもクロネコ(仏語で chat noir:シャノワール)は好まれ、ポスターや挿絵にもよく登場します。ミステリアスな雰囲気に満ちたクロネコは、崇高・孤高な姿勢の芸術家から愛好されました。漂泊の人生を歩んだ夢二は、人を寄せ付けないクロネコに、自身の姿をどこか投影しているようにもみえます。
実は夢二はクロネコだけでなく、白、三毛(白・黒・茶)、ブチ(白色ともう1種類)、縞(しま)模様のトラネコであるキジトラ(こげ茶縞)、サバトラ(灰色縞)なども描き残しています。画中に登場するネコの大部分は、日本人に親しまれている日本猫です。伴侶として人に寄り添うイヌと比較し、高貴な雰囲気と移り気な性質を併せ持つ表情およびしぐさを生かし、夢二は猫の持つ魅力を存分に表現しました。
《竹久夢二美術館学芸員・石川桂子》 |
◆「夢二がえがく動物ワンダーランド〜大正ロマンのイラスト&デザインを中心に〜」 ◆
6月30日(日)まで、竹久夢二美術館(地下鉄根津駅徒歩7分)で。
竹久夢二が描き表した鳥・虫・魚類を含む生き物に着目。約200点の作品に登場する、ユニークで個性的な表現を紹介。
一般1000円。同館 Tel.03・5689・0462 |
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