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第十九回駒場祭ポスター」原画
(神奈川県立神奈川近代文学館蔵) |
軽いポップ調のエッセーから(人間を探求する)重厚な小説、時評やマンガ論まで自在に書き分けた異色の作家・橋本治(1948~2019)ですが、当初はイラストレーターとして活躍していたことは意外と知られていないのではないでしょうか。
1968(昭和43)年、東京大学医学部学生の研修制度改善要求に端を発した東大闘争は無期限ストライキへと展開、大学はその機能を失います。後に「桃尻娘」(77年)で作家デビューする橋本治は、このとき東京大学教養学部の2年生で、美術サークルのほか歌舞伎研究会とデザイン研究会に所属していました。スト賛成派に頼まれてサイケデリック調の文字で立て看板を描いたことはあるものの、闘争には興味もなく、11月に開催する駒場祭(学園祭)の準備に奔走する毎日でした。
デザイン研活動の一環で応募した駒場祭ポスターのコンペでは、橋本の作品が選ばれます。東大の校章・銀杏(いちょう)をモチーフとする入れ墨を背にした男を描き、「とめてくれるなおっかさん 背中のいちょうが泣いている 男東大どこへ行く」とキャッチコピーを配置。当時流行していた仁俠(にんきょう)映画を彷彿(ほうふつ)とさせる、それまでの駒場祭ポスターにない斬新なデザインは、学内外の多くの人に強い印象を与え、「橋本治」の名はまたたくまに全国区となりました。駒場祭当日もテレビのワイドショーに生出演し、取材を受けています。
日本ポスター史に残る傑作として名高いこの作品は、後年複製が作られ、発表から50年以上たつ今も目にする機会があります。作家・橋本治の、さまざまな文体を駆使するスタイルは、あらゆるアプローチ(モノトーンの切り絵からカラフルな絵や編み物までも)で自己表現を試みたイラストレーター時代に培われたものなのかもしれません。
《神奈川県立神奈川近代文学館 斎藤泰子》 |
◆「帰って来た橋本治展」 ◆
6月2日(日)まで、神奈川県立神奈川近代文学館(みなとみらい線元町・中華街駅徒歩10分)で。
「桃尻娘」、「草薙の剣」(2017年)などの小説、独自の理論で時代を切った評論やコラム、古典の現代語訳からイラスト、編み物まで多彩に活躍した橋本治の生涯と作品をたどる展覧会。
観覧料一般700円、65歳以上350円。問い合わせは同館 Tel.045・622・6666 |
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