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竹帛杯
(神奈川県立神奈川近代文学館所蔵・三浦哲郎文庫) |
今年は、「忍ぶ川」「白夜を旅する人々」をはじめ長短編の数々で、人間の悲しみやいとおしさを浮き彫りにした芥川賞作家・三浦哲郎(みうら・てつお、1931〜2010)の生誕90年にあたります。
三浦は、井伏鱒二を唯一の師と仰ぎ、酒の席をはじめ、旅や釣り、写生会、瀬戸での絵付けなど、多くの時を師と共に過ごしました。また、井伏や、恩師であり井伏の弟子でもある小沼丹とはたびたび将棋を指しています。
井伏といえば、「阿佐ヶ谷会」という文士仲間の将棋会が有名ですが、三浦はこれとは別の「竹帛(ちくはく)会」という将棋会に参加していました。
同会の新年会は毎年1月4日、小沼家で開かれました。井伏、小沼、三浦に加え、将棋評論家・天狗太郎(本名・山本亨介)、画家・新本燦根(きらね)や編集者、すし店の主人、大工の棟りょうらと日暮れまで相手を替え四、五番指し、優勝者には「竹帛杯」が渡されました。
図版は、そのトロフィー。1968(昭和43)年から95(平成7)年まで、19本のリボンに記載された名前を見ると、小沼の5回を筆頭に、山本4回、井伏、新本の2回などと続き、残念ながら三浦の名前は87年の1回だけです。しかし、75年正月の将棋会を欠席した井伏宛ての書簡(2月18日付)では、小沼と同率で決勝戦に臨み、優勝したことを伝えています。このときのリボンは残っていないので番外編だったのかもしれませんが、「穴熊を巧みにおびき出して快勝しました」と、その喜びをつづっています。
《神奈川県立神奈川近代文学館 金子美緒》 |
「生誕90年 三浦哲郎展 —星をかたりて、たれをもうらまず—」
7月18日(日)まで、神奈川県立神奈川近代文学館(みなとみらい線元町・中華街駅徒歩10分)で。
遺族から寄贈された「三浦哲郎文庫」資料を中心に、近年発見された初期の原稿など初公開資料を含む約300点を展示。竹帛会のトロフィーや井伏との書簡など師弟の交流も紹介している。
一般500円。観覧は事前予約必要。Tel.045・622・6666
https://www.kanabun.or.jp |
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