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ユーリ・テミルカーノフ |
イワン4世(イワン雷帝)がロシア帝国の前身モスクワ大公国の君主の子に生まれたのは、1530年。しかし、父の大公はイワンが3歳のとき、母も8歳のときに毒殺されてしまいます。孤児になったイワンは教育係の聖職者の手で、信仰心のあつい聡明な少年に育てられました。
そして16歳のとき、初めて「ロシア皇帝」を名乗って即位し、強大な権力を手に入れました。それから後の人生は戦いの連続。周辺のモンゴル諸国を滅ぼして領土を拡大し、内には反逆を続ける大貴族たちを親衛隊に虐殺させ、やがて“雷帝”と恐れられる独裁者になったのでした。
時代は下って20世紀。ロシア革命後、ソビエト連邦の最高指導者になったスターリンは、自身にロシア統一を果たした偉大なイワン雷帝のイメージを重ねようと、映画監督エイゼンシュタインに映画3部作の制作を命じました。時は独ソ戦(第2次世界大戦)さなかの1941年。中央アジアのカザフ共和国(現・カザフスタン)に疎開していた監督は、最も信頼する作曲家プロコフィエフに音楽を依頼し、「イワン雷帝」第1部と第2部を完成させました。第1部にスターリンは満足したものの、第2部には激怒して即刻上映禁止にしました。そこに描かれていたのは、猜疑心(さいぎしん)にさいなまれ、虐殺に走る狂った独裁者、つまり誰もが恐れる自身の姿だったからです。
幻となった映画が日の目を見るのは、スターリンの死後の58年。その4年後、映像を上回る雄弁さで雷帝の波乱の日々を描いたプロコフィエフの音楽も、オラトリオ(声楽とオーケストラによる大規模な劇音楽)の形でよみがえりました。
この超大作を日本に紹介したいと情熱を傾けているのが、ロシアを代表する指揮者の一人ユーリ・テミルカーノフです。幼いころ、プロコフィエフに抱っこされたことのある巨匠は、今年12月で満80歳。この天才作曲家の埋もれていた傑作を、分かりやすい“語り付き”で聞かせてくれます。
《音楽作家 ひのまどか》 |
♪サンクトペテルブルグ・フィル「イワン雷帝」♪
11月13日(火)午後7時、サントリーホール(地下鉄六本木一丁目駅徒歩5分)大ホールで。
サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団がプロコフィエフ「オラトリオ《イワン雷帝》」を演奏。指揮:ユーリ・テミルカーノフ、語り:ニコライ・ブロフ、合唱:東京音楽大学合唱団。
全席指定。S席2万円〜B席1万2000円。ジャパン・アーツぴあ Tel.03・5774・3040 |
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