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  ものしりミニ講座 平成30年3月上旬号  
「冨嶽三十六景」は“全46景”  葛飾北斎

《尾州不二見原》
「『冨嶽四十六景』を歩く」より。おととしJR両国駅近くに「すみだ北斎美術館」が開館するなど近年あらためて北斎が注目されている。「『冨嶽四十六景』を歩く」(1944円)では46景の場所が紹介され、北斎の名作を追体験できる
 2019年度からの新パスポートに葛飾北斎(1760〜1849)の「冨嶽三十六景」が使われます。中の査証欄に透かしで24図が入るとのことです。

 「冨嶽三十六景」は、有名な《神奈川沖浪裏》をはじめ、各所から望む富士山を描いたそろい物です。三十六景と題しながら全部で四十六景。人気が出たため10図が追加されています。描かれた場所は現在の1都7県(東京、神奈川、静岡、山梨、愛知、長野、千葉、茨城)に及びます。

 最も多いのが東京で、日本橋や佃島、下目黒など、景観は変わっていますが、今も描かれた場所を訪ねることができます。最東端は茨城県の潮来市、最西端は名古屋市です。どちらも富士山から170キロほどの位置。ただ、潮来からは富士が遠望できるものの、名古屋からは途中に南アルプスがあるため望めません。

 この名古屋の《尾州不二見原》は、現在の同市中区富士見町付近からの描写といわれています。職人がつくる桶(おけ)の中に富士山を配した人気の一枚です。名古屋に長期滞在している北斎のこと、間違えることはなかったと思いますが、しゃれっ気で、桶を魔法の望遠鏡にでも見立てたのかもしれません。

 北斎は西洋的な遠近法を取り入れるなど写実にこだわる面もあれば、構図を重視し、アレンジする場合もありました。日本橋を描いたものでは、本来なら富士は画の外になりますが左端に配しています。日本一のにぎわいと一緒に富士山を描きたかったのでしょう。

 北斎は数えで90歳まで生きました。「冨嶽三十六景」は70歳を過ぎての刊行。75歳からは続編ともいうべき「富嶽百景」を出しています。号も「画狂老人卍」に改め、その後も極みを目指して死ぬまで描き続けています。北斎の生きざまにも興味が尽きません。

《「『冨嶽四十六景』を歩く」(双葉社)編集者 犬塚浩志》

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