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  ものしりミニ講座 平成29年8月下旬号  
「未知」の塗料、西洋で珍重  「ジャパン」と呼ばれた漆工芸

「扇面蒔絵螺鈿洋櫃(台付)国立歴史民俗博物館蔵 17世紀初ごろ」。西洋人の注文で制作され、海外に輸出された「南蛮漆器」。台はヨーロッパの模造漆で作られている
 桃山時代以降、広く海外に輸出されるようになった日本製漆器は、西洋人の間で愛好されました。17世紀から18世紀にかけての貴族の財産目録には、漆器を示す言葉としてしばしば「ジャパン japan」の語が登場します。これは磁器を「チャイナ china」と呼んだことに呼応する用語であり、当時のヨーロッパで漆器が日本を代表する特産品と捉えられていたことを反映するものです。

 西洋で東洋製の漆器が珍重された最大の理由は、そもそも漆という天然塗料が、アジア以外には存在しなかったという点にあります。ウルシ科の植物の樹液を塗料として利用する文化は、中国、朝鮮、日本、インドシナなどの地域に限られるため、西洋人にとって漆はまさに未知の素材であり、その概念も存在しなかったのです。漆器が「ジャパン」と呼ばれるようになったゆえんです。

 ただ、「ジャパン」の語が、漆と全く同義であるかというと、そうではありません。インドやヨーロッパで製作された漆に似たラック塗料(シェラックを主な材料とする)によるものも「ジャパン」と呼ばれました。私たちから見れば「模造漆」にすぎないものも含む、広義の「漆」を示す言葉ということになるでしょうか。漆を英語で何と訳すかということは、現代の私たちの間でも、しばしば問題になります。日本の漆の適切な翻訳語は見当たらず、oriental lacquer、Japanese lacquer、Chinese lacquer、true lacquer、Urushi lacquerなどさまざまに呼ばれているのが現状です。

《国立歴史民俗博物館教授 日高薫》

企画展示開催中
 9月3日(日)まで、国立歴史民俗博物館(千葉県佐倉市、京成線京成佐倉駅徒歩15分)で企画展示「URUSHIふしぎ物語—人と漆の12000年史」を開催中。一般830円。Tel.043・486・0123

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