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縄文時代の漆かきの復元画(石井礼子画) |
縄文時代といえば、装飾的な土器や狩猟採集生活、竪穴住居、土偶などを思い浮かべる人も多いでしょう。では、縄文人は漆(ウルシ)を利用する高度な文化を持っていたことはご存じでしょうか。
漆は英語でjapanと訳されるなど、日本の伝統工芸として世界に知られています。その漆文化は縄文時代までさかのぼり、最も古い漆器は縄文時代早期末の7200年前の石川県三引遺跡から見つかっています。
漆器はウルシという植物の樹液を利用して製作されます。幹に傷を付けてにじみ出てきた樹液を精製し、赤や黒の顔料を混ぜてさまざまなものに塗布することで、優美な漆器が作られますが、7000年前にさかのぼる漆文化の初源期から、赤色と黒色の漆の使い分け、焼き付け漆、木器などに貝殻を埋め込む「象嵌(ぞうがん)」という技法など、高度な技術が用いられています。漆といえば「漆黒」を想像するかもしれませんが、縄文人は特に「赤」を好み、生命を象徴する赤色を何層も塗り重ねることにその意義を見いだしたようです。
縄文時代から現代まで続く伝統工芸である漆文化が成立しているのはウルシという植物があってのことです。東京都下宅部遺跡は「縄文漆の里」と呼ばれるほど、各種の漆器や用具などが発見された重要な遺跡ですが、ここではウルシの木材も多数出土しました。漆工を行う集落の周囲には、やはりウルシが管理・栽培されていたのです。石器で幹に傷を付けて樹液を採取したことが分かるウルシの木も発見されています。
ところで、ウルシは実は外来植物なのをご存じでしょうか。日本列島の環境では自然には生育せず、管理・栽培を必要とします。中国が本来の天然生育地と考えられていますが、いつ、誰が、どのように日本列島にウルシを持ち込んだのでしょうか。最近、福井県鳥浜貝塚で1万2600年前にさかのぼるウルシの木材が発見されました。このころはまだ日本でも中国でも漆製品は発見されておらず、日本の漆文化の起源を解明する上での大きな謎の一つです。
《国立歴史民俗博物館准教授 工藤雄一郎》 |
7月11日から企画展示
7月11日(火)〜9月3日(日)、国立歴史民俗博物館(千葉県佐倉市、京成線京成佐倉駅徒歩15分)で企画展示「URUSHIふしぎ物語—人と漆の12000年史」を開催する。一般830円。Tel.043・486・0123 |
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