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曳山制作の様子 |
石川県輪島市の皆月山王祭を訪ねて25年になります。最初は文化人類学の野外調査の一環だったのですが、今では私自身が祭りに参加し、役員の手伝いをしています。この祭りの大きな魅力は、白装束の若衆が引く船形の曳山(ひきやま)です。曳山は、毎年、一から部材を組み立てます。くぎを使わずに木組みに綱を巻きつけて固定するので、組み直すことができるのです。
かつて組み立て作業を含めた準備の大半は、地区の小学生と中学生(10〜15歳)に任されていました。作業には鎌やなた、のこぎりといった道具も使います。曳山の部材も一人では運べない大きさと重さのものばかりです。危険な道具を使いこなし、多くの技能を身につけ、彼らはたくましく成長していきます。もっとも祭りの現場では、70歳過ぎのじいちゃんから、厳しく叱咤(しった)されることも多々あります。高校生となり白装束で曳山に上がった時に、はじめて自分たちが一人前になったことを実感するのです。そういった環境が、伝統的な祭りの場に備わっていたことが、私にはとても印象的でした。
よく教育の世界やマスメディアでは、子どもたちの自主性とか創造性が強調されています。しかし、子どもが大人になるための準備の場は、地域の祭りや儀礼の場に既に埋め込まれていたわけです。
ただ現在では過疎化や高齢化のため、地域の文化は急速に失われつつあります。それでも、祭りを担う役員たちは、次の世代に祭りを残そうと努力しています。かつての小学生も、今では家族を支え、おのおのの立場から地域の現実と向き合っているのです。彼らの試みとそこで築かれていく生活文化を、できる限り見守っていきたいと思っています。
《人間文化研究機構・国立歴史民俗博物館准教授 川村清志》 |
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