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黒白逆転鍵盤のアントン・ワルター(オーストリア ウィーン製 1795年)ほか貴重なピアノがずらり |
どの楽器よりも多くの音階を表現でき、音の強弱などの操作も自由自在。さらに独奏も合奏もできるピアノはまさに“楽器の王様”。
そのピアノの鍵盤を思い浮かべてみてください。基本の音を出す白鍵が並ぶ中に、半音を出す小さな黒鍵が挟まれています。この鍵盤配置の基本は、ピアノ誕生時も現在も変わりません。
しかし一時期、モーツァルト(1756〜91)やベートーベン(1770〜1827)が活躍していたころ、大きい黒鍵に小さな白鍵が挟まれた、今と逆の色の黒白逆転鍵盤がはやったのをご存じでしょうか?
ピアノが誕生したのは1700年前後のイタリア・フィレンツェ。芸術家のパトロンとして有名なメディチ家の宮廷内で発明されたといわれています。
ピアノは誕生当時、貴族や富豪しか所有できないステータスシンボルでした。持ち主たちは己を飾りたてるため、ピアノの外観を彫刻や彫金などでデコレーション。さらに鍵盤も白鍵が象牙、黒鍵は黒檀(こくたん)を使用といった具合でした。
その贅沢(ぜいたく)競争に疲れが見え始めたとき、黒白逆転鍵盤が流行したのではといわれています。より高価な象牙を少しでも節約するためです。何だか世知辛い話ですね。
ただし、これは有力な一説にすぎません。ほかにも、演奏する女性の白い指を引き立たせるためというロマンチックな説のほか、さまざまな説があり、いまだ真相ははっきりしていません。
ただ、モーツァルトやベートーベンが、シックな真っ黒い鍵盤で作曲・演奏していたと想像すると、おなじみの名曲もちょっと違って聞こえませんか。
《民音音楽博物館館長・上妻重之》 |
◆古典ピアノ展示◆
民音音楽博物館(JR信濃町駅徒歩5分)の常設展示施設・古典ピアノ室には、ピアノ誕生時から現在まで、それぞれの時代を象徴する貴重な古典ピアノ8台を演奏できる状態で保存・展示。スタッフによる解説・演奏も行われる。
入館無料。Tel.03・5362・3555 |
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