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昭和戦前期のインク瓶(パイロット高級インキ・呑み込み式) |
万年筆という筆記具は、軸の中に一定量のインクを蓄えることで、さまざまな場所で手軽に筆記することを可能にしました。それは毛筆やつけペンで文字を書く段階からの飛躍的な変化でした。
そうした万年筆にかつて用いられていたインクは青やブルーブラックが主流で、ごくまれに赤色のインクが用いられる程度でした。ブルーブラックと呼ばれるインクは暗めの青色という色調からの命名ではなく、インクの中の成分が文字を書くことで空気にさらされて化学変化を起こし、最終的には黒色になるという性質からの命名です。保存に適していることからブルーブラックのインクが盛んに使われてきました。
ところが近年では万年筆にはさまざまな色のインクが用いられるようになってきました。かつては異なる色のインクを混ぜることは(その成分組成上の理由から)厳禁だったのですが、幾つかのメーカーはインクの組成を変更し、現在では複数のインクを混ぜることが可能になりました。さらに一部のメーカーでは、既製のインクを混ぜ合わせることによって、使う人のオリジナルカラーのインクを作ることもできるようになりました。
そうなると個人のこだわりや用途によって多種多様な使い方が可能になってきます。万年筆は使い捨てるものではなく、インクをくり返し補充し使い続けることのできる筆記具です。好みの色のインクを選択したり、作り出したりして使うことで、ますます個人の嗜好(しこう)に寄り添う筆記具になっていきます。万年筆は新しい段階を迎えたといえるでしょう。
《国立歴史民俗博物館 小池淳一》 |
◆万年筆の生活誌◆
5月8日(日)まで、国立歴史民俗博物館(千葉県佐倉市、京成線京成佐倉駅徒歩15分)で企画展示「万年筆の生活誌—筆記の近代—」を開催。一般830円。Tel.043・486・0123 |
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