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近年、筆記具の発達が目覚ましい。長い文章をつづる時にコンピューターでワープロソフトを操ることが一般的になった一方で、多彩な筆記具が開発され、文字を書く環境はますます進化しています。例えば特殊なインクを用いて、いったん書いた文字を消すことのできるボールペンや、低粘度のインクによって書きやすさを追求したボールペンなど、さまざまな種類が発売されています。
一方でボールペンが普及する前の花形筆記具だった万年筆にも復権の動きが見られます。一定の筆圧をかけなければならないボールペンに対して、毛細管現象を応用した万年筆はほとんど力を入れることなしに筆記が可能です。さらに万年筆は長期間、使い続けることによって一人一人の書き癖にペン先が合っていくという特性があります。ペン先に付けられているイリジウムという金属が紙と接触することで、ごくわずかずつ削れていき、ペン先に一定の筆記角度に沿った面が生まれていくのです。そのために使い込んだ万年筆は持ち主にとっては極めて書きやすいものである一方で、他人にとっては違和感が生じるものになります。
いわば、万年筆は長年使い続けることによって、持ち主だけのものに変化していくのです。万年筆を使うことは、万年筆を成長させることにほかなりません。大量に生産される工業製品であり、手のひらで操る小さな道具ではあるけれど、万年筆には使い続けることで生まれる楽しみがあるのです。
《国立歴史民俗博物館 小池淳一》 |
◆「万年筆の生活誌」◆
3月8日(火)〜5月8日(日)、国立歴史民俗博物館(千葉県佐倉市、京成線京成佐倉駅徒歩15分)で企画展示「万年筆の生活誌—筆記の近代—」を開催。一般830円。Tel.043・486・0123 |
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