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印象派を代表する画家、ピエール=オーギュスト・ルノワールの息子ジャン・ルノワールが、映画監督として活躍したことをご存じでしょうか?
ジャンは若い時にフランスの映画界で活躍した後、第2次世界大戦を機にアメリカへ渡ります。その後フランスに戻り、「フレンチ・カンカン」やイングリッド・バーグマン主演の「恋多き女」などのヒット作を生み出しました。父親とは異なる芸術の道を歩みましたが、父の影響力は大きく、ジャンの作品の映像の美しさはモノクロであってもため息がでるほどです。
彼の作品の中でも特に「フィルムによる印象主義」と呼ばれる美しい作品が、シアター・イメージフォーラムで上映中の「ピクニック」(1946年公開)です。この作品は約80年前に撮影されたのですが、公開前に第2次世界大戦が始まり、ドイツ軍によって破棄されてしまいました。しかし、オリジナルネガが秘密裏に救出されていたことで、戦後、撮影から10年を経てようやくパリで公開となります。そして、2013年にデジタルリマスター版が完成。日本でも戦後70年を記念して公開となりました。
ちなみに、デジタルリマスターを遂行するのには、膨大な費用がかかります。1秒24コマのフィルムを一枚一枚点検し、ごみや傷を取り除くという気の遠くなるような作業を続けるわけですから、その労苦は想像に余るものがあります。しかしこの修復作業によって、音声と映像が見違えるほど良くなります。
さて映画「ピクニック」は、本当に美しい作品です。父であるルノワールの代表作「田舎のダンス」「ブランコ」を彷彿(ほうふつ)とさせるシーンも。映画自体が、父へのオマージュのように見えます。川面の光、風に揺れる樹木、ブランコをこぐ娘の笑顔、小鳥のさえずり…。上映時間は40分と短いのですが、消え去っていくからこその輝きを捉えています。画面を見ることで肉感的な快感を得られる、まさに映画の喜びの原点ともいうべき作品だと思います。
戦争による数奇な運命をたどって今再び公開となった「ピクニック」は、まさに平和の象徴とも呼べる作品です。ぜひご覧になっていただきたいと思います。
《シアター・イメージフォーラム支配人・山下宏洋》 |
「ピクニック」デジタルリマスター版 フランス映画
監督:ジャン・ルノワール、原作:ギィ・ド・モーパッサン、出演:シルビア・バタイユ。40分。
シアター・イメージフォーラム(JR渋谷駅徒歩8分、Tel.03・5766・0114)で上映中。1000円。 |
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