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鈴木隆太郎さん |
水戸藩の世から続く「匠の工芸」
水戸市の鈴木茂兵衛商店は、四代目鈴木茂兵衛が1865(慶応元)年に創業して以来、150年続く「水府(すいふ)ちょうちん」の製造卸問屋だ。長い伝統を誇るが、それにとどまらずちょうちんの新しい魅力を提案している。2009年から発売しているミック・イタヤシリーズは、シンプルかつ美しいフォルムで、LED光源を使用。音センサーにより手をたたくと点灯できるなど、魅力的な機能が満載だ。「伝統を守りながら、新しいちょうちんの使い方、表現の仕方、魅力を訴えていきたいです」と七代目で代表取締役の鈴木隆太郎さん(62)は目を輝かせる。
「水府」とは水戸の別称。江戸時代、水戸藩の下級武士が生活を支えるために始めたちょうちん製作が、やがて水戸藩の奨励産業となった。水戸は、岐阜(岐阜ちょうちん)、福岡県八女(八女ちょうちん)と並ぶ日本の三大ちょうちん産地の一つで、水府ちょうちんは茨城県郷土工芸品に指定されている。
全ての工程は手作業。丈夫な西ノ内和紙(茨城県産で強じんな手すき和紙)を用い、竹ひごを輪にして糸を絡めて作っているので、とても頑丈だ。現在、水戸には水府ちょうちん製造卸問屋が3店舗あり、鈴木茂兵衛商店は、そのうちの1店だ。
置く、つるす、持ち運ぶなど、あらゆる環境に対応し、暗闇を明るくともすミック・イタヤシリーズICHI-GO 1(1万260円) |
ちょうちんの魅力は畳めることだ。「袂(たもと)から折り畳んだちょうちんを出して火をともし、蛇腹を伸ばすことによって明かりを包みます。昔の懐中電灯ですよ」と鈴木さん。
その後、実用性が薄くなっても、ちょうちんはお祭りや節句で使用されてきた。現在のちょうちんには「盆ちょうちん」、おみこしなどで使われる「祭りちょうちん」、「奉納ちょうちん」、店舗などの「看板ちょうちん」、インテリアにもなる「照明ちょうちん」がある。
水府ちょうちんの製作では、竹ひごなどで組み立てられたちょうちんの骨組みに職人が1枚1枚和紙を貼り付ける。作業に当たる同店専務の武政賢次さん(59)は「使用する材料が自然の素材なのでそれらを均一に、真っすぐ、滑らかに丸く組み上げていくことが最も難しい部分」と語る |
だが昨今は葬儀も簡素化、節句を盛大に祝う風習も廃れ気味で、ちょうちんの需要も下火になっている。この現状に、「『ちょうちんって面白い』と言っていただけるような商品を送り出さないと、私たちの存在は将来的にはなくなるだろう」と危機感を示す。
鈴木茂兵衛商店は、現代に通じる魅力的なちょうちんの開発に励んだ。「ちょうちんは丸型や卵型などのカンバスです。以前は手描きで絵や文字を入れていましたが、最近は手描きでは描き切れない素晴らしいデザインをインクジェットなどを使って再現しています」と鈴木さん。
その成果は実り、ミック・イタヤシリーズの「ICHI-GO」や「球面台座」などの新製品が12年度グッドデザイン賞のほか、いばらきデザインセレクション2012「知事選定」に選ばれた。
「私たちは『進化するシーラカンス』でいたい。昔からの伝統を守りながら魅力的なちょうちんを開発し、“化石”であっても進化していきたいです」。鈴木さんの情熱は尽きない。 |
●ちょうちん展示●
鈴木茂兵衛商店は、同店展示ルーム(JR水戸駅からバス)で水府ちょうちんを展示している。
8月12日(水)までは盆ちょうちんをメーンにしながら、一部でミック・イタヤシリーズなど新デザインのちょうちんを展示。新旧双方のちょうちんによる幻想的な空間を演出する(9月からは新デザインのちょうちんがメーンの展示に)。
入場無料。土日祝休業(7月31日までは水曜のみ休業)。営業時間は午前9時〜午後6時。
問い合わせは鈴木茂兵衛商店 Tel.029・221・3966 |
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