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「ギリシャなどの国債がデフォルト(債務不履行)になると、日本も大きな影響を受ける。それがグローバル時代」と話す浜矩子さん |
「1ドル50円」時代を予想
世界通貨の一極として発展するかに見えたユーロ。しかし、ギリシャに端を発した欧州の財政危機でユーロ体制が揺らいでいる。そうした中、皮肉にも買われているのが日本の円。ギリシャやスペインを大きく上回る財政赤字に苦しむ日本の通貨、円がなぜ買われるのか。近い将来、「1ドル50円」時代の到来を予想するエコノミストの浜矩子さん(同志社大学大学院教授)に聞いた。
「今は円高というよりはドル安。ドルに対する世界の信任の喪失が円高になっている」と浜さん。ドルを見放した資金の受け皿として円が買われているという。しかし、日本は今年起きた東日本大震災で復興途上にあるし、そもそも国の公的債務(借金)はGDP(国内総生産)比約200%(経済協力開発機構データ、以下同)と、ギリシャ(約147%)やイタリア(約127%)を大きく上回っている。投資家がドルを見放したといっても円に世界の資金が集まるのは不思議だ。
「世界一リッチ」
「一見すると不思議な現象だが、よく考えてみると日本は世界最大の債権国。言ってみれば世界で一番リッチな国。その国にお金が集まるのはいわば当然なこと」と浜さん。財務省によると、日本は世界最大の債権国。しかもそれが約20年も続いている。債権というのは、日本(企業や人・政府など)が海外に所有する株や不動産などの金額が、外国が日本に持つそれを上回っているということだ。ちなみに2010年末は資産が負債を約251兆5000億円上回っている。「投資家の選択はきわめて合理的。お金は当然ながら合理的に動くということを今の通貨関係は示している」と浜さん。
そうはいっても、現状に対する日本人の見方は悲観的なものが多い。円高による輸出企業への打撃、財政悪化、増税—など悪い面ばかりが予想されているようで、一般人の間でも保有する円を外貨などに換えて海外に移す動きが一部に出ているというが…。
「なぜ、焦るのか。円の購買力が一番大きな時にどんどん価値が低下しているドルやユーロに手持ちの円を変えるのは合理的ではない」と首をひねる。それもそのはず、浜さんは「1ドル50円」時代を予想しているからだ。1ドル50円にまで円高が進むと日本企業の倒産が増え、大不況につながるのでは、と連想してしまう。
「しかし」と浜さんは言う。「それだけ円高が進むということはドルに対する需要がぐっと低くなっているということ。あまり使われなくなったドルの価値が下がっても影響は少ない」。1ドル50円になる過程で貿易決済のかなりの部分がドル建てから円建てに切り替わると予想、今のように1ドルいくらで一喜一憂するようなこともなくなるという。
富の分配に課題
だが、世界一のリッチといわれても、生活保護の急増、ワーキングプア、大卒の低い就職率—など暗い話題が多く、実感するのは難しい。その原因を浜さんは「戦後の焼け跡経済の時の体制が今も続いているからだ」と言う。「非常に成熟度の高い、豊かな社会を手に入れた日本で貧困問題が出てくるのは、積み上げてきた豊かな富を分配することが下手なため。それこそ悲観すべきこと」と語気を強める。
そんな日本の旧体制を変革する推進力として期待しているのが定年世代。「高度成長期を企業戦士として勝ち抜いてきた定年世代はお金と時間を含めてパワーがある。そのパワーで自分が住んでいる地域を変えてほしい」と願う。世界ではアラブの春やウオール街のデモなどを先導した市民。その役割を日本で担うのは定年世代、とエールを送る。 |
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