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定年時代
 
  東京版 平成19年4月上旬号  
声優で始まり 声優で終わる   声優/里見京子さん

声を鍛えるために40代から始めた狂言は15年続けた。インストラクターもしているヨガは30年続けている。「これらがすべて朗読にいい影響を及ぼしているのでしょうね」と里見さん
 
 定年世代には懐かしいNHKの人形劇「チロリン村とくるみの木」。クル子役を務めた声優の里見京子さん(74)が、21日(土)に朗読会を開く。里見さんは現在、朗読講座で講師を務めるなど、「声優に始まって声優に終わる」と生涯現役に目を輝かす。声だけで聴く人を作品の世界に引き込む朗読。「定年世代におすすめです」と、その奥深さを美しく張りのある声で語る。

声だけで聴く人を魅了
 声で演じることの魅力を感じたのは、小学生の時の集団疎開で。消灯後に教師が宮沢賢治の童話を読んでくれて、里見さんはその世界に引き込まれた。疎開先での不安と寂しさ、空腹もその間だけ忘れられた。

 転機はアナウンサー志望の大学時代。NHK東京放送劇団のオーディションを受けて合格し、5期生になる。同期には黒柳徹子さんがいた。

 1年ほどたった時、ラジオドラマ「ヤンボウ ニンボウ トンボウ」でいきなり主役ヤンボウの声を担当することに。これがデビュー作。

 初めは「猿の少年役」に戸惑い、生放送ゆえに失敗もした。だが番組は人気を呼び、人形劇「チロリン村とくるみの木」の放送につながる。大学を卒業した里見さんは結局、この仕事を続けた。

 録音はいつも夜中で、朝までかかることも。テレビ放送開始直後で、「みんな暗中模索でしたが張り切っていました。すごく楽しかったです」。

"朗読道"究めたい 21日に語りの世界
 そんな中、里見さんは仕事で知り合った作曲家と29歳の時に結婚。月280本のラジオドラマに出演していたり、演技力不足を痛感して俳優座に3年間"留学"したりと多忙を極めていた里見さんは、家事をする時間も夫と会う時間もほとんどなかった。「後悔はしていません」。好きな仕事ばかりではなかったが、嫌だと思ったことはない。仕事に集中していた。

 時代の流れとともに人形劇の番組が少なくなり、朗読やナレーターの仕事が増えた。現在は朗読の仕事がほとんど。NHK文化センターで、10年続く朗読の人気講座も持つ。生徒は50代以降の人が多く、藤沢周平や山本周五郎など、さまざまな作品を朗読している。

 「読むだけなら誰でもできる」と思って講座を受講する人も多いが、「『一番難しいよ』と言っています」。

 例えば明治時代を描いた作品の場合、着物を着ている人が格子戸を開けるテンポがある。"時代"を表すためには、作品の歴史的背景などディテールを一つひとつ勉強していかなければならない。

 「自分の音声は1本しかないでしょ。これで表現するのは大変なこと。よく考えるから、朗読をしている間は老化しないんじゃないかしら」。ラジオドラマで長く声だけの演技をしてきた「音一筋」の声優としての自負がある。

 「朗読は定年世代におすすめ。自分が生きた世界はひとつでも、朗読によってイマジネーションが広がり、いろんな世界に足を入れられますから」

 指導していると、生徒たちから教えられることもある。以前は自分が話して伝えることに重点を置いていたが、「生徒の話を聞くこと」を大切にするようになった。生徒が何を望んでいるか、どう教えたらいいか、聞くことでわかると。

 教えることに集中し、自らの朗読発表は控えていたが、生徒の勧めでことし朗読会を開く。

 「若いころのように技巧だけでは、ぱっと突き刺すような感動はありません。人生を重ねた自分の中からこみ上げてくるものを、自然体で声に出せないと」。生徒と一緒に勉強することが、自分の積み重ねになる、という。

 「朗読には絶対にこれでいい、というのはありません。"朗読道"だと思って、これからは、今までのことを究めていきたい。声優に始まって声優に終わると思っています」


【里見京子「語りの世界」】
 里見さんが藤沢周平「約束」を朗読。食事付き。費用1万円。定員27人(いす席)。
希望者は〒住所、氏名、人数、TELとファクス番号を明記し、はがきかファクスで。

日時 : 21日(土)午前11時半から
場所 : つきぢ田村(地下鉄築地駅徒歩1分)
お問い合わせ : 〒222-0024 横浜市港北区篠原台町16の16
定年アカデミー事務局 前田道子。TEL/FAX:045-433-8762

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