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遺言書、きちんと作成を 三井住友信託銀行・長沢峰己さん |
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「戦前の長子相続から戦後均分相続が定着し、相続に対する権利意識がずいぶん高くなっています」と長沢さん |
家庭裁判所への調停・審判件数など相続争いが増加している。「だからこそ遺言書をきちんと作成して財産を残す人の意思を示すことが大事です」と話すのは、相続問題に詳しい三井住友信託銀行の長沢峰己さん(リテール受託業務部審査チーム主任調査役)だ。生涯かけて築いた大切な財産だけに、円滑に相続させることが被相続人の安心につながるとともに、相続人となる家族への最後のメッセージとなる。
相続争いが増加する一方で、遺言書の作成も増えている。「家庭裁判所で遺言書の検認(けんにん)手続き申し立てが年々増えている」と長沢さんは指摘する。
検認というのは、自筆の遺言書が見つかった時に家庭裁判所で内容を確認する手続きのこと。検認件数が増えてきたのは、それだけ遺言書を書く人が増えてきたからと見られる。
財産を残すには2つの方法がある。1つは法定相続により相続人が遺産分けをする制度。もう1つは、財産を残す側(被相続人)の意向で遺言書による遺産分けをする制度。長沢さんは「法定相続に優先する遺言制度を使った方が、より円滑な相続が行われる可能性があります」と言う。
遺言書には、自分の財産を誰にどのように配分するかを被相続人が決めて書く。その中に相続人に対し、遺産相続のことで苦労をかけたくないという自らの気持ちを込めることが可能だ。
例えば、自分の事業を円滑に承継させたい場合。相続人に任せて遺産分けをすると、築き上げた財産が有効な形で承継されなくなる可能性がある。また、農地を法定相続人で分けると農業として成り立たなくなることも。
「自分が承継させたい事業をきちんと次世代につないでいくためには法定相続に任せるのではなく、遺言によってしかるべき承継者に対して事業財産を分割することなく分けるのが望ましいと思います」と長沢さんは話す。
最後の思い伝える
一方、個人の場合でも相続人の関係が複雑なケースでは遺言による相続が有効だ。後妻と先妻の子どもがいる場合、あるいは子どもがいなくて相続人が配偶者と自分の兄弟姉妹のケースなどである。
また、遺言書で想像以上に効果があるのは、被相続人が遺産分けする時の気持ちを相続人に伝えること。「遺言の趣旨などを付言事項として書いてもらっているのですが、被相続人にとって自分が考えていたことを最後のメッセージとして伝えることができる。遺書とは違うけれど、非常に有効な手段になります」と長沢さん。
実際、「自筆の遺言書を読んでみたら何かこみあげてくるものがある」と話す相続人は多いという。相続人が「こういう気持ちが最後に聞けてよかったな」という心情になることが円満な形で財産を承継することにつながるようだ。
それでも、「遺産相続は相続人に任せるよ」という人もいるが、頑張って築いてきた財産を自分の思うような形で後世に残したいと思っている人にとって遺言書は必要なもの。「遺言書を書いた後、安心した気持ちになる人は多い」と長沢さん。「遺言によってきちんと意思を示すことで最後の宿題を片付けたような安心感が持てるようです」と話す。
遺言信託サービス
「遺言を作成したけれどそれがきちんと実行されるか不安」と思う向きには、信託銀行の遺言信託というサービスがある。
これは遺言の保管だけでなく、最終的に遺言の内容に従って財産分けをするまで一連の作業を請け負う。
遺言書作成についての相談は、近くの公証役場か信託銀行へ。 |
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