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「年金は60歳から受給を!」 経済アナリスト・森永卓郎さんが説く年金指南 |
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「一番、問題が少ないのはデフレを止める一方、高齢者の増加と現役世代の減少に合わせて年金の給付水準を引き下げ調整すること」と森永さんは話す |
少子高齢化の進展などで年金改革の必要性が叫ばれている中、なかなか安定化策が見えてこない年金制度。「このままでは年金の大幅カットか支給開始年齢の繰り延べ(先送り)しか方法がない」と話すのが経済アナリスト(獨協大学経済学部教授)の森永卓郎さん(55)。政府は大幅カットより「支給開始年齢を繰り延べる可能性が高い」と見る森永さんは、これから受給する人たちに60歳からの繰り上げ受給を勧める。
年金は年金受給資格を満たしていれば、日本年金機構に申請して基礎年金(国民年金)が65歳から受給できる。しかし、それ以前でも60歳から受給を開始することが可能だ。
「もちろん本来よりも早く受給すればその分カットされる」と森永さん。たとえば60歳から国民年金を受給したとすると5年繰り上げになるので30%カットになるという。これは厚生年金(報酬比例部分)も同じで、支給年齢を繰り上げると繰り上げた年月数に応じて減額される。
国民年金の満額(加入年数40年)は78万6500円なのでその30%カットというと55万550円。一度、繰り上げ支給が始まったら一生、同率の減額が続くことになる。年金が減額になるのは生活に大きな影響を及ぼす。それでも森永さんが繰り上げ受給を勧めるのはなぜか。
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■繰り上げと繰り下げ受給■
60歳〜65歳になるまで繰り上げて年金を受給すると減額になり、その減額率は一生変わらないが、逆に66歳以降から繰り下げて受け取ることも可能。その場合は1月0.7%増額され、65歳から70歳に支給を5年間繰り下げると42%増額される。 |
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2つのスライド制
2004年に改正が行われた年金制度。これで日本の年金制度は100年安心になったという意味で「100年安心プラン」とも呼ばれた。この時、年金制度の重要な変化があった、と指摘する森永さん。「本人が現役時代に年金として積み立てたものから支給するという積立方式から現役世代が払っている保険料をストレートに年金受給者に支払う賦課方式に制度を変えた。要するに、払える分しか払わないということになった」と話す。
この時導入されたのがマクロ経済スライドという制度。「これは単純に言うと、高齢者の平均寿命が延びて年金の給付が膨らむ分と現役世代の年金加入者が減少する分については、年金給付の水準を引き下げることで調整する」(森永さん)ということだ。ただ、この制度は物価が上昇している時しか発動されない。本来なら毎年0.9%ずつ下げなくてはいけないのに、デフレが続いているために下げられない状態が8年も続いている。
また、物価に連動して支給を調整する物価スライドも大部分が実施されなかった。このマクロ経済スライドと物価スライドを合わせると約10%。現在は本来の年金よりも10%高く支給している状況にあるという。
繰り延べの可能性
「このため、年金制度が破たんする可能性が出てきた」と森永さん。「今の状態を続けていれば、ある日突然、年金がドーンと下がるか年金の支給開始年齢を繰り延べるしか方法はない」と予想。有権者の反発などを考えると、「支給開始年齢を70歳から、などに繰り延べる可能性の方が大きい」と見ている。
森永さんが60歳からの年金繰り上げ受給を勧めるのは、支給開始年齢が繰り延べられる前に受給をスタートさせた方が“安全”という考えからだ。「すでに年金をもらい始めている人の年金支給を停止して先に繰り延べることは恐らくできない。支給開始年齢が繰り延べになったとしても対象は、これから支給される人たちになるのでは」と見ている。
現状でも年金制度が続いているのは約120兆円といわれる年金積立金があるからだ。しかし、10%高い水準をこのまま放置していたら「年金積立金は10数年で底をつく」と予想。定年後も仕事を続けてきた団塊の世代が65歳を迎えるのを機に現役を引退し始めていることも年金積立金の減少に拍車をかけるという。積立金が底をつく前のいずれかの時点で、「今、年金をもらっている人も含めて最終的に給付水準が現状の3分の2に落ちる可能性が大きい」と話す。
政府は消費税率のアップを検討しているというが、それでも年金の給付水準は下がる、と森永さん。「消費税率を10%に上げると税収は13兆円増えるが、そのうち年金制度の改善に回るのは6000億円だけで、焼け石に水。大部分が無駄遣いで生じた(財政)赤字の穴埋めに使われる」と見ている。
ただ、年金の繰り上げ受給は、障害基礎年金が受けられないなどのデメリットもあるので十分な注意が必要。最寄りの年金事務所などで相談を。 |
「年金は60歳からもらえ」
デフレ時代の選択として年金の繰り上げ受給を勧めている森永卓郎さん監修の近著。構成は溝上憲文。
(光文社・1050円) |
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