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最近、60代の消費動向に変化が出ている。今まで定番ともいえた旅行への意欲が減少する一方、日々の生活の中に楽しみを見いだす趣味やレクリエーションなどにお金をかけたいと考える人が増えている。1400兆円を上回る個人金融資産(日本銀行)のうち60歳以上のシニアが半数以上を所有している日本。60代の消費の変化が日本経済へどう影響していくのか—。
旅行費用は減少
野村総合研究所(NRI)がこのほど1万人を対象に行ったアンケートの中で、「60代が今後、積極的にお金を使いたいもの・こと」という質問に「旅行費用」を挙げた人が2回連続して減少。一方で「趣味・レクリエーション関連」と回答した人が増加した【左グラフ参照】。
「60代は団塊の世代を中心に“賢い消費者”が多い。一度にたくさんのお金をかけるよりも、日常的に続けられる身近な趣味にお金を使う傾向がある」と話すのは、シニアの消費動向に詳しいNRIコンサルタント、石坂英祐さん(29)。
例えば、町歩きやゲームセンター、スポーツクラブ、カラオケボックスなどへ出掛けて生活の中にゆとりと楽しみを見いだしている。「自宅の中に引きこもらないのもこの世代の特徴」と石坂さん。出掛けた先で仲間と会うことを重視している。
ビジネス界では、こうしたシニアの消費の変化に対応した新たな動きが出ている。
その1つが、アミューズエデュテインメント社長(アミューズ最高顧問)の大里洋吉さん(64)が始めた「浅草レビュー」。浅草を昔のようなエンターテインメントの町として再び活気づかせようと、ROX4階の「浅草まねきねこ館」では昨年12月から連日、「復活!! 昭和歌謡!! エノケン、笠置のヒットソングレヴュー」(アスカシアター TEL.03・5826・0315)をロングラン公演している。約70分、2500円(1ドリンク付き)という手ごろな時間と料金でショーを楽しんでもらおうという趣向で、会場がシニアでにぎわっている。
「シニアが経済を担う」
藻谷浩介さん |
昨年ベストセラーとなった「デフレの正体」(角川oneテーマ21)の著者で、日本政策投資銀行の藻谷(もたに)浩介さん(46)は、シニア市場について、こう話す。「高齢者の激増で首都圏のシニアマーケットが大成長する一方、現役世代の減少で現役市場は縮小している。この中で、いろんな商品で現役世代向けからシニア世代向けへと売れ筋がシフトしていく」と予想する。例えば、カジュアルウエアや車、ゲーム、酒類などだ。
「高価であるにもかかわらず、フェアレディZやスカイラインGのフルモデルチェンジが売れているのはシニアが購入しているから。また、酒もガバガバ安酒を飲むのは減ってワインの消費量が増えている。日本酒でも貯蔵酒を売る会社が出ている」と藻谷さんは指摘する。電車やバスは現役人口減少の影響を受けるが、小銭を用意せずワンタッチで乗れるスイカやパスモの普及でシニアの乗客が増え、利用者の減少に歯止めをかけているとも。
ただ、懸念されるのは、シニアの消費が縮こまること。シニア層に偏在している金融資産が預金などに固定されていると経済効果が生じにくい。「シニアがお金を使ってくれると、そのお金が若い人の給料になり税金となって、政府の税収が増え年金財政も安定してくる」と藻谷さん。シニアがお金を使うことが回り回って、年金などの破綻を防ぐことになるという。「これからの日本社会、経済はシニアが動かす」と“エール”を送る。 |
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